商品やサービスの売上は、企業にとってもっとも重要な指標の1つです。そして、この売上を高めるために、マーケティング活動をおこなうことが大切です。
マーケティング施策を練る際には、商品のターゲットを明確にする必要があります。そこで、ターゲットとなる顧客情報を細かく設定しておくと、販路や広告宣伝を適切に決めることが可能となります。マーケティング業界では、この施策のことをペルソナの設定と呼んでいます。
ペルソナとは、商品ターゲットの人物像のこと
ペルソナとは、商品ターゲットを架空の人物像で表したもののことです。主に、企業が商品やサービスを提供するうえで、マーケティング戦略を決める際のテクニックとして用いられています。もともとは、Persona(日本語訳で「仮面」)が語源となっています。Personaは、心理学用語で「他者にみせる外的側面」として扱われています。それが転じて、マーケティング用語としても使われるようになりました。
ペルソナとターゲットの違い
ペルソナとターゲットの違いは、想定する顧客情報を細分化するか否かという点にあります。そもそも、マーケティング用語のターゲットとは、商品やサービスの購入層のことです。たとえば、男性向けコスメの商品であれば、ターゲットは次のように表されます。
- 若年層の男性
- 容姿にこだわりを持つ男性
その一方で、ペルソナでは、ターゲットの情報をさらに細かく設定していきます。そして、最終的には、次のような特徴を導き出します。
- 美容系のサプリを常飲している男性
- 休日にネイルサロンへ通っている男性
- スキンケアのコツを紹介するSNSアカウントをフォローしている男性
- 商談や接待で人と接する機会が多い会社員の男性
- 一人暮らしで可処分所得に余裕を持つ男性
このように、ペルソナ設計では、デモグラフィック属性やサイコグラフィック属性と呼ばれるユーザー属性を決めて、あたかも本当に実在するかのような顧客の人物像を作り上げます。
ペルソナ設定のメリットと注意点
ペルソナを設定するメリットとしては、ターゲットのニーズが明らかになる点が挙げられます。その一方で、ペルソナの設定を誤ると、マーケティング戦略の軸になる情報だけに、利益を損なうといったリスクを抱えています。
ターゲットのニーズが明らかになる【ペルソナ設計のメリット】
ペルソナを設定することで、ターゲットのニーズが明らかになります。商品購入する人物像が浮き彫りになりますので、商品開発の企画やマーケティング戦略を組み立てるうえで役立ちます。たとえば、男性向けコスメ商品のペルソナを設定したところ、次のような人物像が浮上したとします。
- 一人暮らしで可処分所得に余裕を持つ男性
- 美容系のサプリを常飲している男性
- スキンケアのコツを紹介するSNSアカウントをフォローしている男性
このように、ターゲットの日常生活の姿を明確にすることで、商品のマーケティング戦略を組み立てるヒントをえられます。事例のように、可処分所得が多く、美容用品に費用を使いがちで、SNSを多用する男性をペルソナとして設定したとき、次のような戦略が候補として挙がってきます。
- コストをかけて美容の有効成分が多い化粧水を開発し、高価格帯で販売する
- スキンケア情報を発信するSNSアカウントに対して、PR広告を発注する
ペルソナにズレが生じると各種施策が無駄になる【ペルソナ設計の注意点】
ペルソナと実際のユーザー層で乖離(かいり)が生じると、マーケティング戦略に関わる作業や時間が無意味になります。
まず、ペルソナを設定するとなると、情報を収集することになります。具体的な手法としては、アンケート調査やWEBサイトやアプリケーションのアクセス解析などが挙げられます。そして、このような調査をするためには、一定の時間と人手による作業が必要です。つまり、ペルソナの設定を誤ると、ペルソナ設定のための施策が無意味になります。また、そもそも、ペルソナは、マーケティングの起点になる情報です。そのため、ペルソナ設定を前提に進める、商品開発、販売戦略の設計、広告宣伝活動など、一連のマーケティング活動が効果を発揮しない事態に陥ります。
そこで、一次情報や客観的なデータ(数値化されたデータ)を基にしてペルソナを設計しましょう。逆に、主観や思い込み、推測といった、あいまいな情報を用いると、誤ったペルソナに仕上がるリスクが高まります。
ペルソナ設定する項目の事例
ペルソナ設定で用いるデータ項目には、下記のような属性が挙げられます。
- デモグラフィック属性
- サイコグラフィック属性
- ジオグラフィック属性
- ビヘイビアル属性
デモグラフィック属性のデータ事例
デモグラフィック属性とは、人口統計学に基づいた分類のことです。わかりやすくいうと、ターゲットの個人情報となるデータを指します。たとえば、次のような個人の基本情報がデモグラフィック属性として挙げられます。
- 年齢
- 性別
- 学歴
- 職業
- 年収
- 家族構成
こうしたデータを用いて、商品やサービスを利用する、典型的なターゲットのユーザー属性を絞り込みます。そして、主にペルソナ設定時の軸となる情報として扱われます。
商品ブランディングの利点と注意点
サイコグラフィック属性とは、人の心理や生活習慣ごとの分類のことです。サイコグラフィック属性の特徴は、内面的な人の考え方など、目にみえない要素をデータとして扱う点です。具体的には、次のような情報が該当します。
- 趣味
- 悩み
- お金の使い方
- 休日の過ごし方
- 仕事中の1日のスケジュール
- よく利用するSNS
このような情報を通じて、ターゲットが商品を購入する背景を明らかにします。たとえば、料理が趣味でこだわった食事をしていて、仕事の日のスケジュールでは外回りや接待で少し高級な飲食店を探すシーンを持つ人がいるとします。さらに自社では、個室でおいしい料理を楽しめる飲食店を運営していると仮定します。このとき、サイコグラフィック属性とジオグラフィック属性の活動エリアのデータを交えて考えることで、自社の飲食店に誘導するための適切な広告戦略を立案できます。
ジオグラフィック属性のデータ事例
ジオグラフィック属性とは、地域や地理情報に基づいたユーザー分類のことです。その地域の居住環境や文化、気候、人口規模などの情報を基に、商圏の特徴を捉えていきます。具体的には、次のように地域情報をまとめます。
- 居住地域:北海道
- 気候:気温が低い
- 地形:海岸沿い
たとえば、北海道では、他の地域と比較して、年間を通して気温が低めとなります。そのため、暖房設備や防寒具のニーズが高い傾向がみられます。逆に、北海道のエリアに暑さ対策の用品が流通したとしても、他エリアよりも実売につながりにくいことが予測されます。このように、ジオグラフィック属性のデータをまとめることで、「どのエリアにどの程度の数の商品を配送すべきか」といった流通上のマーケティング戦略などに応用できます。
ビヘイビアル属性のデータ事例
ビヘイビアル属性とは、購入行動に基づいたユーザー分類のことです。具体的には、下記のような購入履歴や来店履歴の情報が挙げられます。
- 購入の有無
- 1回あたりの購入金額
- 1回あたりの購入数
- 来店頻度
また、ECサイトやアプリ課金のケースでは、下記のようなアクセスデータを分析して、ビヘイビアル属性をまとめていきます。
- サイト訪問頻度
- コンバージョン率
- 滞在時間
ビヘイビアル属性をまとめていくと、ユーザーが商品を購入するまでのストーリーを描けます。たとえば、インスタント食品を販売する場合、店舗に流通させるほか、ECで販売する方法があります。そして、データをまとめたところ、同一商品において「1回あたりの購入数」が10個を超えて、かつ「来店頻度」が月に1度程度の人が多かったとします。このとき、購入者のなかには、まとめ買いをする人がいることがわかります。さらに、「ECサイトの購入者の数」や「検索エンジン経由でECサイトに流入するアクセス数」が多い場合、「インスタント食品をまとめ買いする購入者は、配送してくれるECを好んでいる」ことや「検索エンジンでインスタント食品を販売するECを探している」ことがわかります。 BtoB向け商品やサービスでは、次のような情報も付け加えます。
ペルソナの設定手順
ペルソナを設定する手順は次のとおりです。
- 情報収集する
- 項目ごとにグルーピングする
- ペルソナシートを作成する
販売する商品としてインスタント食品を事例にして、上記の流れを詳しく解説していきます。認しましょう。また、口コミ情報をチェックして、店舗が消費者にどのようにみられているかの再確認をすることも大切です。
1.情報収集する
ペルソナを設定する際に、最初にやるべきことは情報収集です。具体的な方法としては、下記のような手法が挙げられます。
- アンケート調査
- グループインタビュー
- 自社サイトやアプリ、SNSのアクセス解析
- SNSや口コミサイトの調査
- 自社の顧客データの集計
- 自社に対する問い合わせ情報の集計
商品の流通方法によって、重視する情報収集の手法が異なります。たとえば、EC販売に力を入れているケースでは、オンライン上で活動するユーザーがメインターゲットになります。そのため、情報収集の手法として、自社サイトやSNS、メールの問い合わせといったオンラインツールのアクセス解析の優先度が高まります。
2.項目ごとにグルーピングする
情報を集めたら、デモグラフィック属性、サイコグラフィック属性、ジオグラフィック属性、ビヘイビアル属性の4つの項目に振り分けていきます。
まず、自社商品の購入者を対象としたアンケート調査をおこない、顧客の基本情報を取得したとき、デモグラフィック属性に当てはめていきます。
- 年齢:30歳
- 性別:男性
- 学歴:大学卒
- 職業:営業職
- 年収:500万円
- 家族構成:一人暮らし
そして、アンケートの質問事項で居住地や活動エリアに対する質問をしている場合は、ジオグラフィック属性として、次のようにまとめていきます。
- 居住地域:東京都千代田区
- 職場の地域:東京都新宿区
- 活動エリア:都内全域
- インスタント食品を扱う小売店の数:国内トップクラス
また、アンケートの質問事項で生活習慣や普段触れるメディアに対する質問をしている場合は、サイコグラフィック属性として管理します。
- 休日の過ごし方:インドア派
- 普段触れるメディア:検索エンジン、X(SNS)
自社サイトのアクセス解析でえたデータは、下記の要領でビヘイビアル属性として扱います。
- コンバージョン率:20%
- 平均滞在時間:5分
平均ページ/セッション:3ページ
3.ペルソナシートを作成する
データを集計したら、下記の要領でペルソナシートを作成します。
基本情報 | 性別:男性 年齢:30歳 居住地:東京都千代田区 勤務地:東京都新宿区 職業:会社員 学歴:大学卒 年収:500万円 家族構成:一人暮らし |
休日の過ごし方 | 自宅でゆっくりと休息をとることが多い。 |
悩み | 食費を抑えたいため、外食が少なく、自炊する頻度が高い。しかし、仕事が忙しいため、平日は自炊するための時間をとりにくい。 |
趣味 | インターネット、映画視聴 |
触れるメディア | 検索エンジン、X(SNS) |
自社サイトの利用履歴 | 月に5回ほど、自社サイトを訪問する。このうち、5回に1回の頻度で商品を購入する。 |
自社商品を購入するまでの流れ | 主に、検索エンジンから自社サイトに流入している。そして、サイト内検索で自社が扱う商品のリストページから目当ての食品のページに訪問して複数買いすることが多い。 |
上記表は、あくまでも見本のもので、本来はより詳しい情報をまとめていくことになります。そして、この見本のように、データをみやすくペルソナシートとして整形することで、社内でペルソナ情報を共有しやすくなります。また、それぞれのデータから商品購入までの流れをストーリー仕立てにすることで、「自社サイトで実施したSEO対策の効果が出ている」ことがわかります。そのため、自社としては、SEO対策を強化することが売上を高める施策につながると判断できます。
まとめ
ペルソナとは、商品を購入する典型的な人物像のことです。そして、ペルソナは、商品ターゲットを綿密に描いた姿となります。そのため、「商品を売るためにはどの販路を使うべきか」、「適切にリーチするためには、どのような広告宣伝を展開すべきか」といった、マーケティング戦略を組み立てるうえで役立ちます。ただし、ペルソナと実際の購入者にズレが生じると、誤ったマーケティング施策の実行につながりかねないので注意しましょう。ペルソナシートを作る際には、主観や思い込みを排除して、一次情報や数値的なデータを参照することがポイントとなります。