競争が激化し、顧客ニーズがめまぐるしく変化する昨今、企業が持続的に成長するためには「誰に」「いつ」「どんな価値」を届けるかを見極める力が必要です。
そこで重要になるのが、顧客管理です。点在する顧客情報を一元化し、データに基づいた最適なタイミングでの提案や、効果的なコミュニケーションを実現します。
本記事では、顧客管理の基本から導入のメリット、さらに管理に役立つツールまで網羅的に解説します。
顧客管理とは
顧客管理とは、会社名や連絡先といった基本情報から、購入履歴や頻度などの情報を一元管理することです。蓄積した情報をもとに、顧客のニーズや傾向に合った商品を提供し、顧客との関係性を深めることを目的としています。
かつての顧客管理といえば、紙でファイリングをして行うのが一般的でした。しかし、現在は多くの企業が何らかのツールを利用し、ソフトウェア上で情報を管理するのが主流になりつつあります。
顧客管理のメリット
顧客管理は、現代ビジネスにおいて企業の成長と持続性を左右するほど重要な活動です。ここからは、具体的なメリットについて解説しましょう。
顧客生涯価値の最大化
顧客生涯価値(LTV)とは、ある顧客が企業と取引を開始してから終了するまでの間に、どれだけの利益をもたらすかを示す指標です。
ビジネスの継続的な成長のためには、新規顧客の獲得は欠かせません。しかし、新たな顧客の獲得には、大きな労力と費用がかかります。
そこで重要になるのが、顧客管理です。これを徹底することで、顧客との関係を深め、リピート購入や継続利用を促し、結果的に顧客生涯価値を高めることができます。LTVが高まれば、企業の収益基盤は安定し、持続的な成長が可能になります。
社内共有を強化できる
顧客との過去の取引やコミュニケーションの傾向といった情報は、担当者が抱え込んでしまいやすいのが特徴です。そのため、担当者が休暇をとっていたり、引継ぎが上手くいかなかったりすると、必要な情報が分からなくなるケースも。
顧客管理を適切に実施できれば、顧客に関するさまざまな情報を一箇所に集められます。社内共有も強化できるため、同じ提案を何度もしてしまう、取引終了後のフォローを忘れて放置してしまう、といったミスを回避できるのが大きなメリットです。
効率的なマーケティング活動の実現
顧客データを蓄積していくと、どのような経路で商品やサービスの利用につながったのか、分析できるようになります。
たとえば、顧客データを分析した結果、ダイレクトメールからの購入転換率は2%あるのに、SNS広告では購入転換率が0.3%しかないと分かったとしましょう。この場合は、SNS広告のターゲティング方法を改善する、広告に関する費用をメールマーケティングに振り分ける、といった方策が効果的です。
漠然と行っていたマーケティング策を見直し、費用対効果の高い戦略を立てられるため、コスト削減にもつながります。
顧客離れの対策やリスク回避ができる
顧客管理システムにデータを蓄積していくと、購買頻度が減少している、購入商品の単価が下がっている、といった変化を早期に察知できます。これは、顧客が離反する兆候だと考えられるため、早急な対応が求められます。
一度離れた顧客を呼び戻すのは、大きなコストや労力が必要です。先手を打って適切なアプローチをできれば、顧客離れを未然に防ぐことができます。
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企業の競争力の強化
顧客管理には、顧客からの要望やクレームといった声を管理することも含まれます。これらの声を収集・分析すると、市場のニーズに合致した商品の開発やサービス改善を行えるため、企業の競争力の強化が可能です。
また、クレームを迅速かつ誠実に対応できれば、企業イメージの向上や風評被害のリスクも最小限に抑えられます。顧客満足度を高めつつ、リピーターの獲得にもつながるため、顧客からの声を適切に管理することは非常に重要です。
顧客管理に必要な項目
顧客管理と一口にいっても、管理すべき情報は多岐に渡ります。そのため、どのような項目を管理すればよいか判断が難しい方もいるでしょう。ここでは、必要となる項目を順番に紹介します。
顧客の基本情報
顧客管理の目的は、顧客一人ひとりを理解したうえで、良好な関係性を構築することです。このプロセスで必要不可欠なのが、顧客の基本情報です。たとえば、氏名や性別、生年月日、勤務先、住所などが基本情報に含まれます。
これらの情報がなければ顧客の特定が困難であり、対応の遅れや誤った情報を伝えてしまうリスクがあります。また、画一的な広告や、購入した商品の宣伝を送ってしまうと、企業への不信感につながる可能性も否めません。
また、基本情報には役職や部署名、趣味嗜好といった情報を組み込むのも重要です。顧客理解が深まり、パーソナライズされたマーケティング戦略を実施できるでしょう。
取引や購買の履歴
収益性を高めるには、顧客の購入単価を高めたり、別の商品やサービスの追加購入を促したりする施策が重要です。これらの施策を行うには、取引や購買履歴が大きな手がかりとなります。
過去に購入した商品の種類・価格・機能を分析すると、顧客がどのようなものに興味をもち、どこまでの価格帯までなら支払い意欲があるかを判断できます。結果として、ニーズにマッチした商品やサービスの提案が可能となります。
また、スムーズな購買につなげるためには、適切なタイミングでの提案が不可欠です。商品を購入したばかりの顧客に上位モデルを提案しても、購入にはつながりません。購買履歴を分析すれば、購入から時間が経っていたり、契約更新が近づいていたりする顧客を洗い出すこともできるでしょう。
各顧客の収益性
マーケティング施策の優先順位を決定するうえで重要になるのが、各顧客の収益性です。収益性の低い層へアプローチして購入につながったとしても、大きな利益を生み出すことはできません。
効率よく利益を高めるためには、1回あたりの購入金額が高い層を優先的にアプローチすることが大切です。累計売上や累計利益・平均購入単価・平均購入頻度などの情報は、必ず管理しておきましょう。
問い合わせ履歴
顧客からの問い合わせに関する内容を、記載しておく項目も必要です。自社に向けられた要望や不満点にできる限り対応することは、信頼関係を構築する上で必要不可欠です。そうした意見を分析すれば製品やサービスの問題点が明らかになり、改善へつなげることもできるでしょう。
また、問い合わせに関する詳細を記載するだけでなく、対応の進行状況がひと目で分かる仕組みを設けておくのも重要です。進行状況を整理できていなければ、対応漏れが起こり、顧客からの不信感を招く恐れも。対応の不備が口コミで広がると、企業そのものの信用が低下する恐れもあるため、注意しましょう。
顧客管理を行うポイントは?
ただ情報を集めただけでは、顧客管理の効果を発揮することはできません。ここからは、重要なポイントを3つ解説します。
常に最新の情報にアップデートする
顧客情報は、常に最新の状態へアップデートしておくのが重要です。たとえば、担当者の役職や部署の変更、退職など、状況は変化していくもの。最新の状態にアップデートしなければ、取引先に合わせたアプローチを実施することはできません。
情報は定期的に見直すのはもちろん、顧客の状況に何らかの変化が起きたら、迅速に情報を更新しましょう。取り扱うデータが多いほど対応の漏れが起きやすいため、更新状況がひと目で分かるように、専用の管理ツールを導入するのもおすすめです。
運用ルールを明確にする
顧客管理では、機密性の高い情報を扱うので、運用のルールを明確にしておく必要があります。たとえば、収集したデータの流出を防ぐためには、管理システムにアクセスできる権限は一部だけに付与する、従業員による情報持ち出しの防止を徹底する、といった対策が求められます。
また、何らかのツールを利用して情報を管理する場合、使用ルールを設定したうえで、従業員へ適切なトレーニングを実施するのも重要です。優れたツールを利用しても、習熟度がある程度統一されていなければ、期待していた効果は出せません。状況に応じて研修や勉強会などを実施して、習熟度を高める環境を整えましょう。
パーソナライズされたコミュニケーションを実施する
顧客との関係性は、商品の購入やサービスを利用してもらったら終わりではありません。成約したあとも、積極的にコミュニケーションをとり、関係性を深めていくのが重要です。そこで大切なのが、パーソナライズされたコミュニケーションを実施することです。
たとえば、顧客へダイレクトメールを送る場合、画一的な内容を贈るのではなく、興味関心に合わせたメッセージを送るのが大切です。これまでの購買履歴や取引内容を分析したうえで、ニーズにマッチした提案を行いましょう。自分に合った提案を行ってくれると感じるほど企業への信頼感や期待感は向上するため、問い合わせや成約の可能性も高まります。
顧客管理に役立つツール
顧客管理を効率よく行うためには、ツールを上手く活用するのもおすすめです。ここでは、代表的なものを4つご紹介します。
Excel(エクセル)
多くの企業で行われているのが、MicrosoftのExcelを利用することです。日常的に使われるツールなので操作に慣れている従業員が多く、導入にあたっての教育もほとんど必要ありません。手動編集が不可欠であるものの、自由度が高くカスタマイズ性にも秀でています。
ただし、情報を誤って消したり、個人情報が漏洩してしまったりするリスクもあります。データの集計もリアルタイムで実施できないため、手動で情報を更新しなければなりません。扱うデータが多い場合は、管理が難しくなるのがデメリットといえるでしょう。
CRM
CRMとは、顧客情報を一箇所にまとめて管理できるアプリケーションです。パソコンはもちろん、スマートフォンやタブレットでも情報にアクセスできます。
CRMはただ情報を管理するのではなく、顧客の行動やニーズを分析し、最適な商品やサービスの提案を目的としています。営業活動の効率化や顧客満足度の向上、売り上げ増加など、さまざまなメリットがあります。小売業、不動産業、メディア、製造業など、顧客情報を扱う企業であれば、業種を問わず導入されています。
なお、CRMを導入しても、ある程度データが蓄積されるまでは、効果をすぐには実感できません。売上や業績に効果があらわるまでは、数年単位での時間がかかるため、根気強く運用することが重要です。
SFA
SFAとは、営業活動を支援するシステムのこと。営業における情報や業務プロセスを自動化し、情報をデータ化して蓄積・管理できるのが特徴です。
営業活動を「見える化」できるため、取引の進捗状況や顧客との関わり方などをリアルタイムで把握・共有できます。また、情報を組織全体ですばやく共有できるため、業務を効率化できるのもポイントです。
SFAは営業担当者によるデータ入力が不可欠です。入力作業を負担に感じて必要な項目を入れなかったり、上手く使いこなせなかったりすると、思うような成果は出せません。さまざまな商品が出回っているので、自社の従業員が使いやすいものを選定しましょう。
MA
MAとは、マーケティング活動を効率化するためのツールのことです。顧客データを収集・分析したうえで、顧客の行動や興味関心に基づいて、最適なアプローチを自動で実施します。
主な目的は、見込み顧客を育成すること。適切なコンテンツを提供することで、自社の商品やサービスに興味を抱いてもらい、商品の購入へつなげていきます。
CRMやSFAとは目的が異なりますが、これらを連携させると、高いマーケティング効果を得られます。すでに何らかのシステムを導入しているなら、MAとの連携機能があるかどうかを確認するとよいでしょう。
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まとめ
顧客管理を徹底すると、社内情報共有の強化、マーケティングや営業活動の効率化など、さまざまなメリットを得られます。ただし、漠然と実施していても期待する効果は得られません。
成功のポイントは、顧客情報を常に最新の状態へアップデートすることや、運用ルールを明確にすることです。必要に応じて、自社の規模や目的に合った管理ツールも導入するとよいでしょう。